フルハルター

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■ フルハルター

先々週の金曜日、「マイクロソフト デベロッパー フォーラム」が早めに終わったので、フルハルターという万年筆の専門店に行ってきた。

ここの店主は、万年筆好きには有名な、ペン先研磨職人の森山信彦氏だ。彼の調整したペン先は「森山モデル」と呼ばれているらしい。

大井町駅から歩いて五分くらい。店に着いてみると、狭いとは聞いていたが、想像していたよりもずっと狭い店内。椅子が四つとテーブルが置いてあって、テーブルには試し書き用の紙が置いてある。

先客がお二方。そして店主の森山氏。勧められる儘に椅子に腰かけた。

ここに足を運んだのは、ペリカンの万年筆を買うためだ。私は、ペリカンの万年筆にはちょっとした思い入れがある。

■ 万年筆の思い出 ~パイプのけむり~

私が最初に万年筆がほしいと思ったのは、中学三年生の頃だった。

その頃私は、作曲家の團 伊玖磨氏がアサヒグラフに連載していたエッセイ「パイプのけむり」を愛読していた。彼の軽妙でしっかりとした日本語が好きで堪らず、学校の図書室で何度も借りて読み返すほどだった。彼の文体を真似てエッセイを書いたりしてたのもその頃だった。

その「パイプのけむり」に「万年筆」という回があった。

團氏は、職業柄ものすごい量の音符を万年筆で書くのだという。筆圧も強く、そのため次第に万年筆で書く線が太くなってきて困るというのだ。だからといって、腰が強すぎて一定の太さの線しか書けない万年筆は音符を書くのに向かない。

彼には、様々なタッチの線が書けて、且つ、強い筆圧でもずっと書き味が変化しない万年筆が必要だった。そんなものが有るのかというと、それは、ドイツのペリカンとモンブランというメーカーの万年筆だという。その両メーカーの万年筆だけは、彼のヘビーな使い方にも、いつまでも書き味が変わらずしなやかだというのだ。

これを読んだ中学生の私は、猛烈にペリカンかモンブランが欲しくなってしまった。

調べてみると、モンブランはとても子供に手が届く価格ではないようだった。やがて高校生になった私は、なんとか安目のペリカンを手に入れて、それを使って悦に入っていたものだ。

それから数十年。学生時代に筆記用具はシャープペンシルが中心となり、更にパソコンで文章を書くことが多くなり、いつしか万年筆は使わなくなっていた。

ところがソフトウェアのエンジニアを十年以上続けてきた最近になって、改めて手書きの大切さを感じるようになってきた。そんな或る日のこと。いつもの文房具屋で目にした子供用のペリカン「ペリカーノ・ジュニア」に目が釘付けになってしまったのだ。

「これがペリカン?」

そのときは買わずに帰った。だが、どうにも気になって仕方がない。次にその店に行ったときには、遂に買ってしまった。そしてそれが、私の万年筆熱が再燃するきっかけとなったのだ。久し振りに手にしたペリカンの万年筆のぬらぬらとした書き味はそれほどまでに心地良く、私のアナログ心を刺激したのだった。

■ 森山さんの話

閑話休題。ペリカンのスーベーレンが欲しい、とフルハルターの店主に希望を告げると、スーベーレンの M400、M800、M600 の順に出してきてくれた。あれこれ試し書きをしながら、森山氏の話に耳を傾ける。

  • スーベーレンには M400、M800、M600 を始めとして様々な大きさのものがあり、大きいものが高価だが、高価なものが良いというわけではない
  • ブルーブラック インクは水に強いので、その分詰まりやすくなる
  • メーカー等では定期的に水洗いようするよう勧めているが、先ずインクを出し入れした方が良い
  • 何よりも、書いてないときは蓋を閉め、毎日使って、ペン先を乾燥させないこと
  • オーバーホールも可能だが、そうすると微妙に書き味が変わってしまう
  • インクは、ペリカンにはペリカンのインクを
  • どういうペン・書き味が良いかは、本人にしかわからないもの。誰にでも合う調整というのはない
  • 長く使い込むと自分の書き方に調整されてよくなる
  • 使い込んで自分にとって良い書き味になったペンを、ペン先の再調整をしてしまうと折角の長い年月による調整が失われてしまい勿体ない
  • 携帯時には、揺らしたりぶつけたりしないようにすべき
  • ケースは、中のペンに衝撃が加わりにくいように箱型のものが良い

■ どれにするか?

私の希望は:

  • ペリカン
  • 携帯が楽
  • 持ちやすい
  • 抵抗なく滑らかに書ける
  • ペン先はやや太目

で、中間的な大きさの M600 かな、と思い始めていた。持った感じが一番しっくりきた。

迷っていると、ペリカンのペン先の再調整に来られていた先客の一人の方が、ご親切にも所持されていた何本もの立派な万年筆を試させてくださった。

M800 の 3B といわれる極太のペン先のものを中心に、どっしりしてやわらかい書き味を知る。うーん、これは魅力的だ。益々迷う。

■ M600

結局、第一印象を重視して、ペリカンの M600 を注文して帰ってきた。太さは B。軸の色は黒にした。

フルハルターには、一時間くらい居たろうか。もっと長く居た気もする。フルハルターを出るとあたりはすっかり暗くなっていた。

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帰り道は、試し書きをさせていただいた方と一緒に大井町駅から電車に乗った。インクのことや紙のことなど、様々なことを教えていただいた。貴重な体験だった。

さて、M600 だが、調整していただくので出来上がりまで二週間から一箇月かかるとのこと。ペンケースやインクを準備して、待つ時間をゆっくりと楽しむこととしたい。

万年筆

Posted by Fujiwo