敷居が高い

hurdle.gif
※ 「敷居が高い」の続き。
相変わらず、「敷居が高い」の誤用が気になって仕方がない。
「敷居が高い」は、勿論「不義理や不面目のため訪問しにくい」という意味だが、コンピューター関連記事などで、矢鱈と「レベルが高く自分には手が届かない」という意味で使われている。もう本当にこれは多い。
更に、この誤用から「敷居を下げる」といった新たな誤用も生まれている。「Linux 導入の敷居を下げる」だとか「WEB2.0 の敷居を下げる」だとか「参加しやすいように敷居を下げよう」だとか。
当然のことながら、これらは間違いだ。私には、とても違和感があって気持ちが悪い。
「いや、入りにくい心理を意味するので誤用とは言えない」という意見を聞いたこともある。だが、この場合の「敷居」は、「二度とうちの敷居は跨がせない」や「どの面さげて来たんだ。よくうちの敷居を跨げたな」でいう「敷居」なのだ。不義理や不面目によって入りにくい場合にしか使えない。「敷居が高い」を「レベルが高く自分には手が届かない」の意味で用いるのは、明らかな誤用だ。
勿論、時の流れの中で、或る言葉が本来の意味と違う別の意味を持つことはよくあることだ。「言葉は生き物」というのは、よく言われることで、それは分かる。
しかし、大体からして、「レベルが高く自分には手が届かない」の意味で使うのは、「ハードルが高い」と似ているために混同して使っているものだ。「言葉は生き物」といっても、こういう「よく知らない言葉を知ったかぶりで使って間違えたような恥ずかしい例」が定着するのはどうなんだろう。
また、「ハードルが高い」や「二の足を踏む」のような正しい言葉が他にあるのに、同じ意味のことを誤用で無理に伝えようとする必要もなかろうと思う。
…というわけで、「敷居が高い」という言葉を使う場合には、本来の「面目なくて家に行きにくい」に言い換えて違和感がないか確認することを推奨したい。

    • 使用例:

      「オブジェクト指向は分かりにくい」…。登場から30年以上経っても,未だにオブジェクト指向に対する敷居は高いままだ。

    • 言い換え例:

      「オブジェクト指向は分かりにくい」…。登場から30年以上経っても,未だにオブジェクト指向には面目なくて家に行きにくいままだ。

ついでに「こだわる」も「些細なことを必要以上に気にする」という本来の意味に言い換えてみると良かろう。
昨今、この語を「妥協せずにとことん追求する」の意味に使うことが流行っているようだが、本来否定的なニュアンスを持つこの語は、(自分に用いるのならともかく) 他人を称賛するのに用いるのには向かない、ということが分かると思う。

    • 使用例:

      「彼は、プログラミングのときのクラスやメソッド、変数の名前にはこだわっている」

    • 言い換え例:

      「彼は、プログラミングのときのクラスやメソッド、変数の名前といったどうでも良いことを気に掛ける」

「こだわる」は、食べ物を紹介する番組などでもよく耳にするが、こちらも言い換えてみると良い。褒めている心算が、相手には別のニュアンスで受け止められているのかも知れないのだ。

    • 使用例:

      (ラーメン屋に向かって) 「ご主人、ラーメンにこだわってますね」

    • 言い換え例:

      (ラーメン屋に向かって) 「ご主人、ラーメンみたいなつまらないものに執着してるんですね」